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1995年3月1日(水) ![]() ![]() ![]() ![]() | 『住宅ジャーナル』に掲載建築革命を宣言するオープンシステム 1,000万円のコストダウンを含め実例8棟 本誌が展開しているCPMキャンペーン「10万ドルのコストダウン」の実例を報告する。 本誌既報の通り工期一週間で坪25万円の青森県の産直住宅の事例が大きな反響を呼び、閉塞した住宅産業に風穴が空いた。同システムの開発者は今日の状況に対応不能となっている大工技能者を必要としないシステムで、飛躍的な生産性の向上を目ざすものだが、ここにまた新な方向からコストダウンにアプローチする起業家が現われた。 鳥取県米子市の建築家・山中省吾である。氏の提唱する「オープンシステム」は下請け工事を分配するだけのブローカーに成り下がっている工務店を排除し、設計事務所が設計・施工管理を行なうことでコストダウン効果を直接施主にもたらそうとするものである。 存在理由なきものは淘汰される。商社、問屋の次に振るい落とされるのは技術力なき工務店である。 別途工事を入れると1,000万円以上のコストダウンとなった。下は見積り比較
オープンシステムセミナーより 一ヵ月長くて1,000万円高い工務店 1992年7月に開店したレストラン「エルピカンテ」の受注工事が後のオープンシステム″を開発する原点となりました。客席数110席、床面積70坪のこの建物は、米子市角盤町にあったレストラン「ジョリーミラー」を改装したものです。既設の建物の一階外壁と床をすべて落とし、裏半分の屋根を落としました。床下配管などもすべて取り替える大規模な改修工事でした。 オーナーから出された条件としては急いでいるので、@早く設計をしてほしい、A工期は一ヵ月、の二点でした。それを受けて私は急遽三日間で図面を書き上げ、工務店に対して施主の要望を伝え、三日間で見積りを提出するよう要請しました。 三日後に、見積り書を持参して、私の事務所を訪れたその工務店の回答は「山中先生、この物件は工期一ヵ月ではとても無理です。オーナーと交渉して二ヵ月に工期を延ばしてもらうよう交渉してもらえませんか」というものでした。 私は工務店の言葉をそのまま施主に伝えたところ、「それでは駄目だ。既に7月1日オープンのチラシも作製済みだし、7月にオープンするのだからビールがよく売れるのだ。ましてレストランが営業不能な工事期間中にも従業員に対しての給与は支払わなければならない」 僅か一ヵ月といえども、商業施設のオーナーにとっては営業不能日の機会損失と、その間の固定費(人件費)は大変大きなものとなるわけです。 オーナーより再度工期一ヵ月で可能な方法でと要請され、私はこの工務店は無理だと判断したけれど、なんとか突貫工事を行なえば可能ではないかと判断し、仕事を引き受けることにしました。私がまず行なったのは一ヵ月では不可能と回答した工務店を工事から外すことでした。この工務店は当地の有力建設企業で、レストランオーナーがわざわざ指名したのですが、できないというものは仕方がありません。 次に私が行なったことは、建築を構成する電気工事・水道工事・左官工事・ペンキ工事・大工さん等々の業者さんに協力を要請し工事をスタートすることにしたのです。 一方、オーナーにも、急を要するのだから、工事期間中仕事がないレストランの従業員に工事の補助作業を手伝わせればと冗談をいったら、その気になったオーナーは自らが工事用の地下足袋を用意され、建設専門職に混じって現場で働きだしたわけです。 こうした、にわか造りの作業員の労務貢献もあり、レストランの改修工事は予定工期よりも三日間早く、28日間で完了することができました。 竣工後、各専門工事業者の方々に支払い請求を出してもらい、それらを集計したところ、予定していた金額よりも1,000万円も安く仕上がったことが判明したわけです。 これを、見たオーナーが慨嘆して日く「山中さん、工務店とは一体何物なんだ。工務店とは施工のプロではないのか。素人ができないことを行なうからプロとしての対価がもらえるはずではないのか。施工のプロであるはずの工務店が二ヵ月では不可能と言った。ところが施工のプロではない山中設計が専門工事業を集めて一ヵ月で完成させた。おまけに施工金額も安いではないか」 施主の利益を守るために働こう この件を経緯に私の事務所では建築業の存在意義″を改めて考えさせられることとなったわけです。 その後事務所スタッフ全員でこのテーマを真剣に討議しました。「設計事務所の存在意義と可能性とは」「設計事務所はなにをするためにがんばるのか」等々。 このミーティングで得られた結論は私も含め「工務店からもらう仕事は楽しくない」というものでした。私の事務所はスタッフ三名(四月より一名増員)の小さな設計事務所なので、工務店やゼネコンからくる仕事は部分的な設計依頼や、「今度よい顧客を紹介するから安く頼むよ」といったさまざまな制約のなかの仕事が多いのです。 既存の取り引き関係では、山中設計にとっての大方の顧客は工務店・ゼネコンであり、工務店やゼネコンを喜ばせ、儲けさせる設計だけの仕事が面白いはずがないのです。 では、「面白くない仕事は断ろう」とスタッフ全員の賛同を得て、1993年当時約70%あった元請けからの設計依頼をすべて断ることとしました。 それ以降、これまでになかった新しい形態で建築を作り上げていくこととし、私達のテーゼとして「発注者の利益を守れるようなシステム、建築の質を向上させていくようなシステム」を目ざしています。 オープンシステムとしての第二号の顧客は酒類ディスカウント店舗の「アルク」(巻頭写真)さんです。建築革命を目ざすオープンシステムの初めての顧客が消費財のディスカウンターであったことに面白い縁も感じています。 日本の建築コストはなぜ高い 1) 発注者自らが価格交渉をしている愚。 施主は工務店を呼んで、合い見積り等の手法で価格交渉しようとするが、本当に価格の明細を吟味する手段をもっているのだろうか。あたかも弁護士を立てずに裁判を争うようなもので、結果は目に見えている。建築のアマチュアである施主はプロである工務店には勝てない。 2) まか不思議な資材単価 多段階流通の弊害は建設資材においても目に余るものがある。最終需要者である工務店までもが、仕入れ単価にマージンを上乗せし、見積り書を出すことをてんとして恥てはいない。 なん種類もあるのも不思議な現象である。 まず、メーカーがカタログに記載する定価があり、設計者が設計仕様書に記入する設計単価があり、公共工事に使われる地方公共団体別の県単価あり、「建設物価」等の書店で購入することのできる刊行物の単価あり、専門工事業者が実際に請け負う工事単価等、どれが本当の単価なのか不明である。 3) 談合は建設会社の重要な仕事 公共・民間工事を問わず億を超えるような大型工事では談合が行なわれる。 その仕組は一種のポイント制となっており、極めて興味深い。 そのシステムとはA社は○月○日に物件情報の第一報をキャッチして以来追いかけている。B社は一番最初にプランを提出した。C社は家内の妹の婿がオーナーと友達である。 これらの物件に対するファククーやコネクションの度合ををポイント制にして相互評価し、受注候補企業が談合で決定される仕組であるという。 最低入札価格制は疑惑の温床 鳥取県岩見町の公共工事で、ロワーリミット(最低入札価格)を下回った電気工事業者が失格を不服として裁判を起こした。公共工事の最低入札価格の存在根拠は、役所の設定する価格より下回る業者はきっと手抜き工事をするものであるというものだが、この電気工事業者は、自社の見積り価格の利益分まで提示して、最低入札価格を下回っても十分に利益は出るのだからと、最低入札価格制度の矛盾に強く反論している。 T-1・T-2・T-3 三タイプのオープンシステム オープンシステムは三年前に山中設計事務所が考案したオリジナルの建築発注システムで、1994年8月に商標登録を出願した。 同システムはT−1・T−2・T−3の三種類のシステムで構成され、建築業界のリエンジニアリングをめざそうとするものである。 1995年現在、オープンシステムで建築された事例は8件あるが、山中設計では実験段階にあるオープンシステムを今後さらに現実に即した形にするため進化の努力を継続中だ T-1タイプ完全分離発注型(元請けカット) まず発注者(施主)は設計事務所(山中設計)に建築物の設計・施工管理発注を行なう。それを受けて設計者は設計図面を添付して複数の専門工事会社に合い見積りを取る。 T-1は住宅や小規模建築物を対象としたシステムなので、各専門工事企業ごとの請け負い金額は比較的小さい。これを完全な自由入札としてもあまり実際的なメリットが出ないので各専門工事につき2〜3社の指名としている。工事単価のほかに工事内容と工程計画をチェックした後に、工事業者が決定される。見積りの最高単価を入れた企業は次回は入れ替えとなり、常に専門工事業者間の価格競争が働くようにしている。 施主は決定された専門工事企業ごとに契約書を交わす。通常は元請けとなる工務店は排除しているので工程管理は設計事務所(山中設計)が担当する。そして、各工程の終了ごとに月締めで銀行口座に工事代金が支払われる。大工工事のような数ヵ月にわたる工程は工程から歩掛かりを算定し月締めで支払われていく。また、竣工後のメンテナンスは専門工事企業の担当部分につき責任をもつこととなっているが、取り合いの部分で明確には区分できないケースもあり設計事務所(山中設計)も責任を負う。 T-2元請け活用型 T-1は、まともに施工管理もしないで下請けに工事を分配するだけの機能しかない工務店を排除すれば建築工事費は下げることができるという単純な発想でスタートしたが、実行していく過程で元請け間、専門工事業(下請け)間の価格競争が行なわれていない現実を知らされた山中氏は、建設業の競争促進を目的に T-2を発案した。 T-2はT-1の完全分離発注型とは異なり元請け(工務店)活用型である。発注者が元請け一社と契約を結ぶ形態は従来と同じであるが、その中味は全く別物である。 工事入札資格は完全なオープンで、ゼネコンが下請け工事も包括した一式入札も可能だし、各専門工事部門ごとにメーカー、流通、サブコン等だれでもが自由に入札の参加が可能である。 入札参加者が大勢となるので、細密なルール設定と手順が組まれている。 1)発注説明会の開催。 2)見積り期日の設定。 3)見積り期間中に質疑応答書を集計し、そのデータを公開して見積り条件の平準化を図る。 4)見積り金額は郵送とし、受注者が決定するまで交渉を禁止する。 オープンシステムT-2の真意は地場工務店が培ってきた工程管理の技術を生かそうとするもので、施工管理のノウハウそのものを商品として販売できる工務店でなければ採用されない。 巻頭ページの見積り比較書の仮設工事を例にとって解説を加えてみる。 オープンシステムが62万円、に対し総合建設会社は417万円と6倍以上の格差が付いている。オープンシステムの仮設工事の内容明細は仮設足場が46万円、大工小屋、仮設トイレ等の金額である。一方の総合建設会社は仮設足場のほかに水盛り・やり方費用、墨出し費用、安全対策費が含まれている。しかし安全対策費は諸経費で計上している部分に含まれるべき性質の項目であり二重請求をしていると言われても仕方がない。他の数倍の格差が出ている項目についてもこの総合建設会社は合理的な価格明細の根拠をもたなかった。見積り価格比較では、総合建設会社は給排水設備工事を別途工事としているので、実際の価格差は 1,000万円以上にふくれ上がってしまう。現状の建築見積り書の中味はブラックボックスといわれるゆえんである。 本当の施工管理という建築の根幹の技術で競う工務店が系列下請けでなく、入札で最も高いコストパフォーマンスを出した専門工事企業を管理できるはずである。また、設計監理・施工管理が別であるのことで互いのチェック機能が働せよう。 こうした意図からT-2のシステムが発案されたが、競争はしたくない・第三者のチェックは受けたくない・価格をオープンにしたくない − とする今日の環境下、T-2の成功事例はようやく一件生まれたばかりだ。 エンドユーザーの声 職人が招かれる竣工式 オープンシステムの住宅版第一号となった大畑さん宅を訪問し、大畑憲御夫妻の話をうかがった。 施主の大畑憲氏は米子市を中心に手広く自動車用ガラス販売と修理を経常する実業家だけあって、「オープンシステム」の提唱する建築コストの合理性の意味をすぐ理解することができた。同氏のビジネスである板ガラス業界も日米構造協議の指定品目となっているだけに、今日の価格破壊の本質がどこに存在するかは肌身で感じている一人である。 住宅も、中間流通業者との一つとなっている工務店を省けばコストダウン可能である。頭では理解できても、いざ自宅を建築する段になると大きな不安が付きまとったと大畑氏は語る。 「私の親戚一同、青年中央会で親交のある友人、取り引き銀行まで、10人中9人が反対しました。地場で信頼のあるM社にしなさいと。建築中に山中設計が倒産したどうするのかと」 それでも大畑氏がオープンシステムで家を建てようと決意したのは、山中設計事務所の施主の利益を守る″という施策に深い共鳴を覚えたからだ。着工後、造作工事の途中で大工が病気で倒れ、仕掛かり工程を別の大工で代替させたために予定工期を大幅に超えた点を除いてはほぼ100%満足通りの住宅が完成した。竣工パーティーには施主の意向で、施工に携わった職方も招かれ、住まい手と作り手が直結した新たな住宅生産の仕組をともに祝った。 施主の大畑氏は今ではオープンシステムの良き理解者となり支援者でもある。取材中にも住宅を注文しょうとするユーザーが参考のためにと見学にみえていたが、心よく自宅内を案内されている姿には山中設計事務所に寄せる熱い期待感がうかがわれる。 設計者が建築革命の主体に T-1、T-2のほか山中設計が直接にはかかわらないケースを想定したT-3があり、この三つが1995年現在のオープンシステムの全力テゴリーである。 この事例として岐阜県にある希望社の「建築の発注代行サービス」があげられる。同システムは昨年10月にNHKのクローズアップ現代″という番組で放映されたのを機に全国から問い合わせが殺到し100名以上いるスタッフがてんてこまいで応対にあたったほどの大反響であったという。 同社は昨年暮れに、島根県松江市の大手地場ゼネコン金津技研からの仕事を受注した。金津技研は賃貸マンションの建設工事を受注したものの、昨今要請であるローコスト化について社内で検討した結果、既存のシステムでは限界があると判断した。そこで「建築発注代行サービス」をテストケースとして、コストダウンにアプローチを図ろうとするものだ。 TV放映で同社の存在を知った山中氏は、「建築革命」の萌芽が自社のほかにも発生してきたことで、一層志を強くした。全国に同志的なネットワークを作っていきたいと語る。 オープンシステムで建築産業の革命を起こすのには、見積り書のオープン化が不可欠の条件となる。工事原価、施工管理費を明確にすることはもちろん、それらの建築のコストが分かる設計者を育てることが重要だ。 オープンシステムの真意はコストダウンばかりではない。設計者が直接施主と折衝して建築の品質の向上を図っていく−施主が求めている建築内容をプロとして導いていくコンセプトメーカー″の役割を担っていることも肝心な側面である。 たとえば大畑邸では家族が集って住う機能″がコンセプトとなった。 高い吹き抜け・中央の階段の配置計画も、子供達が自室に入るのに必ずここを通過するので自然に動向がつかめるし、インターホンを付けないで、一声かけることで家族に呼びかけることができる − の婦人の希望を反映したものだ。 「初めての打ち合せの時に『どういうご家族ですか』とたずねられ、面くらいましたが、施主の希望でも建築のプロとしておかしな部分ははっきりと指摘されたので、ずいぶん助かりました」と陸美婦人は言う。 酒類店舗アルクのオーナーは、自社店舗の壁に「オープンシステム」の看板を掲げさせて、趣旨を支援している1人である。アルクは一般のディスカインクーのように倉庫を改造したようなローコスト一本槍の建物とせず、人の口に入る物を販売するのだから極力自然の暖かさを取り入れる″をコンセプトとし、トラスには大断面集成材を採用、フロアもフローリング、商品陳列のラックも木製とし、趣きを醸し出している。 工務店経由の設計だけの仕事を全て断ったので、山中設計事務所の売り上げは減少、オープンシステム三年目でようやく元の売り上げ高に戻ったが、「革命家が金持ちであるはずがない」と活淡と語る山中氏の言葉に気負いはない。 | オープンシステムの雑誌 (その他の体験ブログ) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 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