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建築の - オープンシステムの雑誌

1996年4月8日(月)

『日経アーキテクチュア』『日経アーキテクチュア』


『日経アーキテクチュア』


現代のすご腕
専門工事会社の競争で実勢単価を把握


 公共性の強い建築工事の入札業務を設計事務所に委託するという異例の試みが今年1月に行われた。鳥取県淀江町が第三セクターで運営する「白鳳の里」の研修棟増築工事(S造平屋建・230u)でのことだ。

 入札を取り仕切ったのは,米子市で設計事務所を営む山中省吾氏。自らを「建築革命家」と呼ぶ設計者である。92年以来,普通のやり方なら5000万円かかる工事費を4000万円に抑える手法で10件以上の建物を完成させてきた。山中氏が「革命家」を自称するのは,その手法が既存の建設業界の体制を否定するものだからである。

 革命家の持論は従来の常識と相いれない。いわく,「工事単価に相場などない。市販の資料が掲載するデータはナンセンス」,「手抜き工事の原因は工事費の安さではない。公共工事に最低制限価格があるのはおかしい」,「談合は建設会社の重要な仕事」−。住宅や店舗,工場などの建設を考えている素人を定期的に集めては,こんな“アジテーション”を繰り返している。

契約金額は予定価格の7割に

 第三セクターが通例を破って入札を山中氏に任せたのも,独特なコスト管理手法を見込んでのことだった。第三セクターの取締役,渡辺政則氏がこう説明する。「本館の設計者を公開コンペで選んだところ,デザインはいいのだが,コスト面で問題があった。予算は3億5000万円だったのに,実際には5億円もかかってしまった。増築では,なんとかして工事費を抑えたかったので山中さんの評判に期待した」。

 そんな山中氏ならではの入札が,一般的な方式であるはずはない。総合建設会社だけでなく,仮設,鉄骨,左官,電気設備,機械設備など16業種の専門工事会社も広く入札に参加させた。地域の総合建設会社約100社,専門工事会社約300社にファクスで参加を呼び掛けたのである。見積書は山中設計に郵送する方式をとった。

 実際に見積書を寄せたのは,総合建設会社が約30社,専門工事会社が約60社だった。そのなかから金額の低さによって,まず総合建設会社を1社,次に各業種についても専門工事会社を1社ずつ選んだ。それから各専門工事会社と総合建設会社の工事単価を項目ごとに比較,専門工事会社の方が安ければ総合建設会社の下請け工事会社と入れ替えた。

 この方式の狙いは,入札参加者の数を多くして談合を防ぎ,専門工事会社の本気が表れた金額を実勢単価として総工費に反映させることだ。

 当然,通常の入札にないルールが必要だった。見積書には「値引」という項目を設けず,実際に受注可能な金額を記入させた。総合建設会社の経費と利益は,個別の工事項目には含めず,別にまとめさせた。工事請負契約は総合建設会社が一括して行うが,専門工事会社には入札で決まった金額を支払うこととした。

 結局,専門工事会社3社を総合建設会社の下請け会社と入れ替えた。契約金額は3780万円。鳥取県の発注単価で作成した予定価格5350万円の約7割の金額である。

きっかけは工務店に断られた工事

 この方式,実は山中氏の手法としては変則的なものだ。通常は,それぞれ入札で選んだ専門工事会社と発注者が直接契約する直営方式を取っている。山中設計が工程を管理するから総合建設会社は不要となる。最も安い専門工事会社の単価が工事費のベースとなり,総合建設会社の取り分がいらないのがミソだ。

 もちろん単純に最低価格を提示した専門工事会社を選ぶのではない。設計者ならではの視点で見積金額をチェックする。「既製のコンパネを並べるだけですむよう設計しているから,普通の型枠工事のu単価でなく,実際の人工を考えた見積もりを頼む」,「丁寧に塗らなくてもデザインで処理できるから,大将ではなく若い衆に塗らせていい」,−こんな交渉を専門工事会社と重ねて単価を決めるわけだ。

 これまで,第三セクターのケースのように特に発注者が希望する場合に限って,総合建設会社,工務店を工事に加えてきた。「発注者の身になれば,総合建設会社,特に技術力のない工務店なんかいらない」と山中氏は言う。山中氏が新手法を始めたきっかけは,工務店抜きで断行せざるを得なかった工事の成功だった。

 92年夏,設計終了後に工期の短さを理由に工務店に断られた工事があった。しかし,発注者の都合で工期は延ばしようがなかった。やむを得ず,山中氏が工務店の代わりに工程を管理して,大工,左官,電気など専門工事会社に直接工事を依頼した。ただし発注者には,「私は施工管理のプロではないから工事費は高くなると思う」と通告しておいた。

仕事をもらっていた工務店と決別

 ところが竣工後,専門工事会社に支払い請求書を出させて集計したところ,予想に反して予算より1000万円も安かったのだ。発注者は,「どうして施工の専門家でない山中さんが工務店より安くできるのか。しかも工期も間に合った。工務店はいったい何のためにあるのか」と首をかしげるばかりだった。

 山中氏自身も,工務店が何のために必要なのかを改めて考えさせられる体験だった。現場に職人を集めて全員で相談すれば,全体の工程は半日で固まった。石や設備類などが信じ込んでいた価格よりも実際は随分安く入手できることも分かった。

 工務店が工事に参加しないことで不便は感じなかった。一方で,無駄なカネを工務店に払っていると感じた。工務店の存在意義を疑ううちに,「我々はなんのために仕事をするのか」と設計事務所の役割まで疑わしく思えてきた。当時,山中氏の事務所は総勢4人の小所帯。官公庁の仕事に実績はなく,工務店の下請けが仕事の7割以上を占めていたのだ。

 そんな疑問から,工務店抜きの工事を一歩進めた,専門工事会社の競争を活用した独自の手法が浮かび上がった。「発注者が工務店と価格交渉するのは,弁護士なしで裁判を争うようなもの。発注者の利益が守られるようなシステムこそ我々のテーゼ」という結論に達したのだ。

 しかし,工務店を儲けさせる下請け仕事を続けていては,工務店を排除する新手法の妨げになる。すべて断ることにして,1軒ずつ「今後は仕事を引き受けない」とあいさつに行った。「急に方針を変えても事務所は立ち行かない」といさめる工務店の社長もいた。実際,事務所の収入は激減した。

発注者の店舗に新方式の看板

 専門工事会社だけを採用した第一号は,93年7月に竣工した酒のディスカウントショップだった。酒の価格破壊に取り組んでいた発注者が,山中氏の“革命”を呼びかけたビラを見て趣旨に賛同してくれたのだ。

 総工費は4040万円。総合建設会社が1社だけ入札参加を希望したが,空調設備を別途工事にして総額5286万円だった。実際には1500万円程度の差が生じたわけである。この成功例が山中氏のアジテーションに説得力をもたせ,その後は個人住宅を中心に依頼が続くことになった。

 事務所の収入はようやく,工務店の下請けを断る前の水準にまで戻った。「私が工務店ににらまれても,消費者の支持が生産者の生き残りを決める時代が後退するとは考えられない。むしろ淘汰されるのは工務店」と山中氏は言う。収入は増えても利益にはなかなかつながらない。工事期間中ずっと設計者が現場に張り付くことになるからだ。山中氏は「革命家は貧乏なもの」と笑う。

 しかし,利益以上の勲章があった。発注者の思わぬ反応だ。ディスカウントショップのオーナーは店に山中氏の手法を説明する看板を掲示した。住宅での第一号となった発注者は,竣工後に山中氏を沖縄旅行に招待してくれた。

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