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1996年9月1日(日) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() | 『ダイケンニュース』の掲載明日へのパーススペクティブ オープンシステムという新しい発注システムをご存知だろうか。オープンシステムとはひと言でいうと、代理的機能しか果せない工務店をとおさず、設計事務所が設計・施工管理を行い、個別の専門工事ごとに入札し、発注者(施主)が専門工事会社の各社と直接契約を結び、コストダウン効果を発注者(施主)にもたらそうというものである。発案者の山中設計事務所の代表、山中省吾氏にその目的と内容、そしてこれからの設計事務所の在り方について伺った。 施工費が安く、工期も短縮のオープンシステム オープンシステムは建築コストを大幅に下げる建築発注システムとして、現在、業界の内外から評価が高まってきている。山中設計の山中省吾氏は「もともと 4年前に手掛けたレストランの受注工事がきっかけだったんです。70坪の建物の改装でした。建物の外壁と床をすべて落とし、床下配管もすべて取り換えるといった、大規模な改修工事だったのですが、オーナーからの条件はすぐオープンしたいので早く設計し、1ヵ月以内で完成して欲しいというものでした。そこで、3日以内で図面を書きあげ、工務店に依頼したところ、予定の工期では無理なので2ヵ月に延ばして貰えないかという要望でした。これをオーナーに伝えたところ、既にオープンするチラシも作っているし、7月にオープンするからビ−ルも売れ、工事期間中には従業員にも給与も支払わなければならない。僅か1ヵ月とはいえ、商売をしているオーナーにとってはその機会損失は大きいし、人件費もバカにならないわけです。そこで、今まで試したことはないが、こちらで職人を集めてやってしまおうということになって、電気工事、水道工事、左官工事、ペンキ屋さんに大工さんとそれぞれの専門業者にあたって協力を要請して工事をスタートさせました。この工事では現場の管理だけでなく私達も工事の手伝いをしたり、オーナーにも頼んで、どうせ従業員を遊ばせているならエ事の補助作業を手伝えばと冗談をいったら、オーナー自らが現場に出て働きだしたのです(笑い)。突貫工事みたいなものでしたが、予定工期よりも3日早くできあがりました」。しかしながら、竣工後、各専門業者の請求額を合計したところ、先に工務店が見積った金額よりも1,000万円も安く仕上がったという。「オーナーにこれはどういう事なんだと聞かれたんです。プロの工務店が約束の工期でできず、しかも施工のプロでない山中設計ができて、しかも金額が安いというのはどういう事だといわれたんですね」。これがきっかけで山中設計では建築業の存在意義を改めて考えさせられることになったという。また、設計事務所そのものの役割まで疑わしく思えてきた。「事務所のスタッフに聞いたんです。設計事務所の存在理由とその可能性について。もともと私の事務所はゼネコンや工務店から紹介された仕事を中心にやっていたんですが、これだけではスタッフもおもしろくないというんですね、いろいろな制約もありますし。そこで、どうせやるなら楽しいことを心がけようということで、まず、元請けからの設計依頼や、紹介物件をすべて断ることにしたんです。スタッフの賛同を得て。そこで、私達のテーゼとして考えたことが、発注者の利益を守れるようなシステム、そして、建築の質も向上できるようなシステムを考えようということだったんです。それがオープンシステムでした」。 設計段階でコストを下げる工夫 しかし、現実と理想は違う。これまでの取引先の仕事を断ったため、事務所の売上も7割滅に下がったという。「我々は営業はできないので、どうせ営業ができないのなら市民講座のようなセミナーを開こうとか、建築革命というこちらのテーゼを盛り込んだチラシを配ったりしました」。その時、弾みがついたのが、お酒のディスカウントショップの建築だったと山中氏は語る。山中設計のチラシを見て、お酒の価格破壊に取り組んでいたディスカウントショップが賛同してくれたのだ。「それぞれの専門工事業者に声をかけて見積り方式で一番安いところを優先的に選んで取り組みました。工務店も参加の名のりをあげてきたのですが、工務店の見積りは坪40万円、こちらで業者に直接声をかけて、見積りを合計してみると坪29万円。総額にして1,500万円近い開きができました。これは設計料から工事代金、空調、陳列棚、照明器具まで入れての金額です。今の工務店さんのすべてがそうだとは言いませんが、いかに受注するか、ということしか考えていない。代理店機能、あるいは建材の小売業になってきていると思うんです。設計段階でもコストを安くできるという工夫はあるんです。基礎工事を取ってみても。このお酒のデイスカウントショップでは基礎工事でコンパネを使用する場合、普通加工して切ったりつないだりするわけですが、既製品のコンパネを並べるだけの方法をとりました。そうすると、工期も手間賃も半分以下で収まります。大工仕事も同じようにできるだけ単純化しました」。 設計事務所が入札の業務を委託される 山中氏は現在の日本の建築コストはわからないことだらけだと語る。「まず、発注者は相見積りなどで価格交渉をしようとするが、実際はその明細を吟味する手段を持っていません。見積りの束を見たって素人にはわからないですよね。また、資材単価ではメーカーの定価があり、地方公共団体別の県単価があり、刊行物でも表示されている“建設物価”の単価があり、どれが本当の単価かわかりにくい。3番目は談合という摩訶不思議な仕組み、さまざまな評価ファクターがからみあいながら決定されていく。最低入札価格の根拠もわからない。日本の建築コストはこうした矛盾の上に成り立っているんですね」。山中設計では今年、鳥取県淀江町が第3セクターで運営する「白鳳の里」の研修棟増築工事(S造平屋建・230u)の入札業務を手掛けた。公共建築物の入札業務に設計事務所が委託されるというのは極めて異例なことである。「この工事は国からの補助金が付かなかったんです。それに以前本館の設計をコンペで選んだところ、申し分のないできあがりだったのですが、コスト面で1億5千万円もの予算が超過してしまった。そこで、私が取り組んでいるオープンシステムの方式を見込んでいただいて、私の事務所に委託されたわけです」。 下請けと元請けの立場が逆車云する この入札方式は、これまでのオープンシステムと遣って、ゼネコンや工務店に現場の管理能力を任せるシステムでもある。しかし、全部自由参加で一斉に入札をかける方式だ。「白鳳の里」の入札では、ゼネコンも含め、基礎、鉄骨、左官、電設、機械設備など、16業種の専門工事業者に広く入札に参加させ、地域のゼネコンで100社、専門工事業者で300社にファックスで参加を呼びかけた。実際に説明会に参加したのが100社、見積りを出したのが約80社、もちろん狙いは入札参加者の数を多くして談合を防ぎ、原価もゼネコンの管理費用も明確にして総工費に反映させる事である。「最初は混乱しましたよ。業界では初めて、専門工事業の人達にも初めての事でしたから時間もかかった。この物件だけで業者として400くらいの業者にファクスで知らせ、訪問して説明に回ったりもしました。半分ほどの業者はこれまでの工務店との関係があるから参加できないということでしたが、でも、みんな気概は持っているんですよね。これだけ毎日汗水流しているのに充分に評価されない。オープンシステムですと仕事が直接オーナーに評価されるでしょう。職人というのはそういうところがある。初めてオーナーに専門工事業者として自己PRもできる。また、ピラミッドの頂点にいつもいいところを吸われているという不満も持っている。つまり、オープンシステムでは下請けと元請けの立場が逆転した訳です。竣工式には全員呼んで貰えますしね。公共工事におけるオープンシステムはかえって緊張感があっていいようです。公共工事ということで実績を作りたいという業者もいますし、今まで参加できなかった業者にも機会が与えられることになりましたから」。 コストのことも施工のこともわからない設計事務所 オープンシステムをしているとビックリするようなこともあるという。もっとも安い基礎工事業者に頼んだところ、その基礎は基礎でない。型枠を作らず根切りし、砕石の上に鉄筋を並べた状態に生コンをど〜んとぶつこんで、はいできました!という目が点になるようなこともあったという。もちろんこれはやり直させた。これまでやっていた常識という非常識が浮き彫りになる面もあり、施工の質そのものも向上しているという。「これまで、設計の仕事というのは、デザイン面ばかり強調され、マスコミでもその評価はデザイン性にありました。それはそれで評価もできるし、新しいスタイルを求めるのも設計者のひとつの役割ではあると思います。しかし、地道に人々の生活に密着して、施主のメリットを考える設計事務所に光があたってもいいのではないかと思っています。今、設計事務所と工務店は馴れ合いになってきているし、自由性もきかなくなっている。また、コストのこともわからない、施工のこともわからない設計事務所が増えている。これで設計事務所といえるのでしょうか。たとえば、日本の木造住宅はムダの固まりみたいなものです。自分でいざ監理してみるとよくわかりました。半分くらいがムダ。私の発想からいうと工場で加工してから現場で組み立てる方が合理的。でも、現在は現場でノコギリで切ったりとかムダな作業も多い。戦後、さまざまな産業は機械化され技術革新され成長してきましたが、現在の木造住宅はすべてとは言わないが30年前の工法とほとんど変わっていない。設計事務所にもその責任はあると思うのです。確かにこんなことをやっていると儲からないのは確かなんです。いっそのこと工務店をやった方が儲かるよと諭されることもあるんですが、社内で合理化すれば十分やっていけます」。こんなエピソードがある。若い夫婦の魚屋さんに工事を頼まれたが予算が150万円しかない。大工さんに頼めないので、山中設計のスタッフが施工し、魚屋さんにも手伝ってもらったという。設計料が15万円では悪いということで、スタッフ全員が鯛の尾頭付きと鰻をいただいたそうだ。設計事務所というものの在り方がなんであるか考えさせられる話である。 | オープンシステムの雑誌 (その他の体験ブログ) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |