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建築の - オープンシステムの雑誌

2000年10月10日(火)

『週刊エコノミスト』『週刊エコノミスト』


『週刊エコノミスト』


84兆円市場が50兆円に大縮小で起こること

旧来型の建設産業崩壊が「新建設産業」を生む


 問題ゼネコンの処理ばかり目を奪われていては、建設産業の新しい潮流を見失う。地方ではすでに「革命」的な試みが始まっている。それは、21世紀の「ゴールドラッシュ」を予感させる。
山崎 裕司 (システムズ代表取締役)


 いよいよ10月に入った。公共工事の年度発注工事量がほぼ明確になる時期である。地域間で格差はあるものの、発注量は全国平均で前年度比10%程度激減している模様だ。予算は災害復旧地域に優先的に配分され、逆に災害等がなかったところではその分だけ発注工事の削減幅が大きくなっている。そのため、仕事のない地域を中心に受注価格の叩き合い(コスト割れ受注)が勃発し始めている。

 そこに今年は、三省協定単価(建設省、農林水産省、運輸省が各地の労務費や資材費などを勘案して決める建設基準単価。毎年一回見直される)の大幅下落の衝撃が重なった。労務費が激しく算定され、全国平均では10%程度下落したことによって、予定価格自体が大きく落ち込む事態になった。労務費が最も激しく算定された地域では何と30%も下落したということで、それに応じて予定価格はその半分の15%ダウンした。 建設業界が期待していた補正予算も、10兆円規模と掛け声ばかりは大きいが、各所から反発を受けて立ち往生。一体どうなってしまうのか、心もとない話だ。要するに、国にもお金がない。ほぼ財政破綻という状況にあるのは、地方自治体ばかりではないのだ。

地方で「新しい建設産業」の産声が上がった

 このように暗い話ばかりが目につくこの建設産業だが、21世紀には崩壊して消え去っていくのであろうか。断言しよう。そんなことは絶対にあり得ない。

 かつてあった繊維産業や石炭産業などの構造不況とは訳が違う。建設産業こそは、究極の地場産業だ。そもそも輸出もできないかわりに輸入も効かない。そのうえ、「衣食住」というくらいで、人の生活とは切っても切れない関係にあるのが建設産業だ。そこに人がいる限り、建設需要がゼロになる、などということはあり得ない。 建設市場はなくなるのではなく、縮小する。ただそれだけのことだ。無論その縮小が急激なことによって、「なくなる」という印象を与えてしまうことがあるのかもしれない。

 具体的な数字で示せば、最盛期の1992年には、建設市場の規模は84兆円だった。これが99年では70兆円くらいに減少。さらに数年後には、悲観的な予測だと50兆円程度にまで縮小するという見方もある。
 ただし、建設産業が粘り強さを見せるのはこのあたりからだ。先進国中最も建設投資が少ないといわれるイギリスでも、対GDP比で7%くらいの市場規模がある。普通の先進国は10%近辺だから、日本の建設市場が縮小していくといっても、対GDP比で10%、つまり、この50兆円あたりが底になるはずだ。消減することなど、絶対にない。

 さらには、この産業の歪みの大きさを考えてみることだ。もう誰もが理解しているように、これほど歪んだ産業はほかにあるまい。

 談合という言葉に代表される政官民の癒着構造。護送船団と表現される横並び相互扶助的意識。工事の「請負(うけおい)」を「請け負い(うけまけ)」などと自嘲気味に語るような、上から下へと歪みを押しつけていく業界の体質。要するに、まともな自由競争社会にいまだ到達していないのだ。

 だからこそ、ものすごいビジネスチャンスも眠っている。「50兆円のニュービジネス市場」。それがこの建設産業のもう一つの姿でもある。

 これはもう常識だが、規制緩和はニュービジネスを生む。これほど規制でがんじがらめにされていた産業はないのだから、その建設市場が自由化されていけば、当然のことながら膨大なビジネスチャンスを生み出していく。その市場規模が、50兆円というとんでもない巨大さなのである。

 問題は誰がこの宝の山を掘り出し、眠っている金塊を自分のものにするかということだ。あるいはその方法論だろう。  建設市場ではまもなくそういう意味での「ゴールドラッシュ」が始まるはずだ。

米子で始まった「オープンシステム」

 新しい時代は地方から始まっている。鳥取県米子市のケースを紹介しよう。

 一級建築士がデザインした住宅が、市場価格の2、3割も安く手に入るとしたらどうだろうか。「革命」なのではないか。もう少し表現をゆるめても「価格破壊」にほかならない。これを実現したのが、米子市在住の一級建築士、山中省吾氏が確立した「オープンシステム」である。

 まずは住宅建築からハウジングメーカーや工務店を排除してしまう。オーナー(施主)は、実際の施工に当たる専門工事業者と直接契約を結ぶことになる。同時に一級建築士、デザイナー事務所と2つの契約を結ぶひとつは設計。もうひとつは施工管理。施工にあたる専門工事業者を選別し、工程間の調整をして、住宅が完成するまで責任を持つ。いや、そのあと10年保証を含めて責任を持つ。ハウジングメーカーや工務店の役割を、一級建築士事務所が肩代わりする仕組みだ。

 中間マージンが一切ないから、安価になる。というより、実際に住宅を施工している専門工事業の段階では、住宅はさほど高いものではなかったのだ。自ら施工管理にかかわってみて、そんな事実に山中氏は気がついた。とはいえ困難はつきもので、それらを乗り越えてシステムを確立した。

 「これはいけるぞ」と踏んで、全国に展開。現在すでに100社近い一級建築士事務所を会員として集め、なお急増中だという。

 メンバー数がもうひとケタ上の1000、2000へと増えていけば、これはもう住宅建築業界を大きく変えるうねりになっていくはずだ。巨大ハウジングメーカを頂点に据えたピラミッド構造が崩れ、同時にかっこよくて住み心地のいい住宅が、安価で手に入るようになっていく。家を建てる側からすると、こんなにありがたいことはない、そんな変革がすでに日本の各地で始まっている。

 このオープンシステムと連動して、専門工事業者でも構造改革が進んでいる。すでに説明したように、このオープンシステムでは専門工事業者がオーナー側と直接契約を結ぶ。ということは、これは下請けではなく元請け。普通、専門工事業者といえば、下請け、もしくは孫請け、曾孫請けであり、重層構造の最下層を構成してきた。だから、こうした「元請け専門工事業者」などというべき業態こそが革命的なのだ。

 こうした専門工事業者が、どれだけ元請けとして責任を持った対応をしてくれるか。このあたりが当システムの成否を分けるだろう。オープンシステムでは必要に迫られて、元請け化に対応できる専門工事業者を発掘し、ネットワーク化する動きが繰り広げられている。ということで、その名も「Gyousha Bank(業者バンク)」。

 オープンシステムが発展するにつれ、下請け専門工事業者の世界にも変革が始まる。元請け化することができれば、その分受注も拡大するし、受注単価も改善される。

 オープンシステムは今のところは住宅に限定しているが、施工管理のノウハウは比較的簡単なので、住宅で実績を積んだあと、一般のビルやマンションにも進出を予定しているという。業界改革の大きな流れとなっていきそうだ。

近江八幡の「とりりおんコミュニティ」

 次に紹介するのは、滋賀県近江八幡市のケースだ。当地の秋村組が中心となって、年商規模1兆円の仮想建設会社が誕生しようとしている。その名も「とりりおん(1兆円)コミュニティ」だ。

 構想はこうだ。年商規模で100億円クラスの地方ゼネコン100社が連合体を組む。これであっという間に、1兆円の年商規模になる。ものすごく簡単な話だ。しかしこれまでなら成立しなかったはずだ。100億円クラスといえば「地方の雄」。一国一城の主たちなのだから。

 とはいえ、時代はこの厳しさ。さらには、今後に対する不透明感が「地方の雄」たちの不安をかき立てる。甘えたことなど言っておれないということで、かえって結束が促された。9月27日に30社を超えるメンバーが集まり、構想を新聞発表。発表後はあっという間に100社になると予想しているようで、10 月から準備をさっそく開始し、来年4月からは本格的な活動に入っていく計画だ。

 まず手始めに、建設資材の共同購買や資・機材の共同利用に着手。その後、外注業者や社内人材の共有化、さらに進めて共同受注までが検討範囲となっている。

 時代はIT(情報技術)革命の真っただ中。会計システムを共有化するといったASP(アプリケーションサービス・プロバイダー)事業など、今後考え得る協業化メリットは無限に広がると期待しているようで、基本コンセプトは「IT時代のプラットフォーム」。IT革命の全国規模での受け皿、足場といったところだ。

 たとえば外注業者の共有化ひとつにとっても、オープンシステムの業者バンクなどとの連携が生じれば、日本全国何万社もの専門工事業者ネットワークに育つ可能性がある。各社内技能工の共有化が進めば、アメリカ流のユニオンに成長する可能性すら考えられないことではない。業界改革のプラットフォームになっていく可能性もある。

「旧建設産業」が滅んでいるだけ

 中央では、ゼネコン崩壊の最終章が進んでいるようだ。熊谷組債権放棄枠組みが金融界主導で決定され、その他の問題ゼネコンの処理についても、来年前半にはほぼ形が決まっていくのだろう。これで日本建設業団体連合体(日建連)65社の業界地図は大きく塗り替えられる。地方も建設崩壊の流れを受けて、倒産整理に向かう会社も激増すると思われる。

 だが、こうした暗い動きばかりが強調されてはならない。何かが崩壊するとき、そこには必ず何か新しい潮流が生まれ出てくるものだ。さしずめ、今崩壊しようとしている産業を旧建設産業、逆に生まれ出ようとしている方は新建設産業とでも呼ぼうではないか。そう考えていくと、公共工事量激減による建設崩壊現象も、あくまでも旧建設産業の崩壊にすぎない。

 それは同時に新建設産業の誕生を意味している。今後は一気に、日本の各地で新建設産業の産声が聞こえてくるはずだ。オープンシステムも、とりりおんコミュニティもそうした産声のひとつである。

項  目 参考内訳金額 決定金額
仮設工事 1,094,154 749,510
土工事 722,764 723,274
コンクリート工事 1,369,260 1,190,665
鉄筋工事 310,172 336,750
鉄骨工事 4,489,123 3,226,750
防水工事 209,110 119,550
タイル工事 138,722 127,500
木工事 3,212,475 4,291,040
屋根外壁工事 3,908,544 4,163,260
金属工事 1,724,789 1,345,840
佐官工事 1,380,633 929,450
木製建具工事 2,417,000 1,370,200
金属建具工事 1,355,000 1,312,000
塗装工事 959,602 774,950
内装工事 3,325,141 3,112,019
厨房機器 915,000 587,200
家具工事 145,000 230,000
電気設備工事 6,153,870 3,800,000
機械設備工事 9,685,400 7,000,000
諸経費 9,808,911 2,414,873
合  計 53,324,670 37,814,871


設計事務所にはコストを把握する方法が無い

 実際設計事務所はどの程度まで建築のコストを把握できているのだろうか。また把握する手段があるのだろうか。

 コストについては「何をコストとするのか」という議論があるのは承知している。しかしこの間題に突っ込んでいくとややこしくなるので、別の機会に譲ることにする。ここではとりあえず専門工事会社が請け負う金額の合計を工事原価とし、必要な諸経費を加えたものを建築工事費として話を進める。

 わが国の建築工事は元請会社が工事全体を一括で請負い、各専門工事会社に工事を分配することによって成り立っているが、その多重下請け構造が建築の価格を複雑、不透明にしている最も大きな原因であると思われる。まず、工事現場で直接工事をしているそれぞれの専門工事会社の金額(工事原価)を明確にし、そこから必要なものを積み上げていこうという考え方が必要である。

 正直言って私の事務所が「オープンシステム」を始めるまでは、工事原価に関して調査をする手だては全く無く、あくまでも推定の域を出なかった。もっばら事例にあげたような単価表に頼らぎるを得なかった。

 それではゼネコンや工務店から提出された見積書が沢山揃っているなら、それを分析すればよいではないか、という考え方の人もいると思うが、それもナンセンスである。ゼネコンや工務店の明細書は実際に専門工事会社(下請け)に支払う金額が記入してあるのではない。元請けとしての利益や経費も上乗せしてあり、しかも全ての項目に同じ率で乗せているわけではない。そこにはそれぞれの元請け会社としての戟略が盛り込まれており、いかに受注し利益を確保するか、というストーリーがある。フィクションの小説を読むようなものである。実際、発注者に提出するための見積書と、工事原価を記入した実行予算書の2通りあるのはご存じと思う。

 結局市場で動いている工事原価は、価格の決定権と発注権をもった上で、専門工事会社と価格交渉を繰り返していく中でしか把握は出来ない。従って現在の設計事務所のようなデスクワークではけっして工事原価は見えてこない。既存の価格表に頼らざるを得ないあいだは、あくまでも参考金額の域を出ない。

直接工事費と経費の明確化

 元請け会社は工事全体を一括で請負契約を交わすので、建築工事費をどうしてもグロスでとらえようとする。場合によって設計料やその他のサービス料は無料ということも可能になる。只より高いものは無いというが、経費やサービス料をそれぞれの項目に盛り込んだ見積明細書では、それを受け取った発注者や設計者にとって、あまり意味が無い。

 発注者や設計者にコストを分析する能力が無いかぎり、中身の明細はともかく、トータルでなんぼ、というところにどうしても結論がいってしまう。

 発注者にしてみれば結果オーライなら良いではないか、ということもいえるが、それではいつまで経っても、設計事務所が主体的にコストコントロールをする、などというのは不可能なことである。あてにならない参考内訳明細書の何パーセントが基準では、説得力を持たない。ただし目安にできるというのであれば、それなりの意味はある。

 建築施工会社の商品が工事を完成させるために必要な技術力であるとしたら、建材の価格の中に利益を乗せて発注者に提示するのはおかしなことである。そうであるなら、ゼネコンや工務店は建材店を兼用していることになる。また、各下請け会社(専門工事会社)に支払う金額に諸経費を上乗せした見積書を発注者に提示するのもおかしい。それでは別項目で諸経費を計上すべきではない。下請けに工事を配分して利益や手数料を吸い上げるのが建設業だ、という誹りを受けてもやむを得ないことになる。

 いずれにしても今の状態は健全とはいえない。建築需要が拡大傾向にあったからこそ、吸収できたのである。これからはこういった建設会社の体質そのものが、自らの首を絞めることになる。

 設計事務所は専門工事会社から直接工事費を把握する手法を考え出さなければならないし、そのデータを分析してコストを主体的にコントロール出来るようにしなければならない。そして、施工会社の見積書はまず原価(専門工事会社の金額)をチェックし、そこから必要な技術料、経費を積み上げていくという考え方をしなければならない。

最後に

 与えられたテーマとかけ離れた内容になってしまった。なおかつ誌面もオーバーした。最後に「オープンシステム」のコスト把握に関して、もう一つポイントだけ述べる。

 最大のポイントは設計事務所が「発注権限を持つ」ということに尽きる。尚かつ発注権限はどの専門工事会社をいくらの金額で採用するか、という権限まで持たなければならない。

 「オープンシステム」の基本はあくまでも分離発注である。私達の設計図を基に、業種ごとに有る程度競わせて見積りをとる。基本的にはそれぞれの業種で最も金額の低い専門工事会社と設計内容を再検討し、さらに価格交渉したうえで施工会社を決定していく。

 工事金額と支払日、支払金額の一覧表で建築主から了解が取れたら、工事請負契約を結ぶ。契約を結ぶ日は住宅であるなら15社から20社くらいの専門工事会社が、建築主の元に一同に会する。そこで一社ずつ順番に挨拶を交わしながら契約を結んでいく。そこには元請け下請けという関係は無く、私達設計者を含め全ての専門工事会社が建築主のパートナーという立場となる。さしずめ私達設計者はオーケストラでいうならば、指揮者という役割であろうか。工事が始まると現場は私達設計者が組んだ工事工程表に則って、お互いのコミュニケーションを取りながら進められていく。

 建築設計事務所も随分専門的に細分化されてきた。構造設計、設備設計、積算設計と。それぞれの専門分野に於ける知識や能力は飛躍的に向上したであろうが、建築のマネジメントは建築の全体を捉えようという視点を持たなければ、上手くいかないような気がする。

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