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2002年7月1日(月) ![]() ![]() ![]() | 『建築知識@』CM方式にもとづく分離発注のパターン (P143〜144) 筆者はCMの実践者であるものの、CMの研究をしてから実践に移したのではない。自分なりに工夫して取り組んできたことが、後に「それはCMだ」と指摘されるようになった。CMに取り組んで10年間、自分の体験した範疇でCM実践論、経験談を紹介する。 なぜ今「CM」なのか? 冷静にわが国の建築業界を眺めると、また特に住宅においては、CMでの着工数はいまだ微々たるものでしかない。 では、なぜ今CMが注目されているのか。数年前まではCMでの着工数は限りなくゼロに近かったものの、胎動の兆しが見えて以降、その数は着実に増加している。そして、しばらくは急増し続ける要因がある。建築主、設計者、専門工事会社が嬉々として取り組んでおり、住宅産業全体が凋落傾向にあるなかで脚光を浴びているからだ。このようにみていくと、近い将来、CMは住宅発注方式の重要な選択肢になり得ることは十分予測できる。 従来の発注方式は、住宅供給側(ハウスメーカー、工務店)からの一方的な情報に偏りすぎていた。供給側にとつては必要であり、必然の流れだったのであろうが、建築主や専門工事業の人たちには、「無駄と無理」の押し付けに見えても仕方がなかった。 無駄とはつまり談合、多重下請構造、建築資材の複雑な流通、過剰な営業・宣伝、そのほか多々ある。無理とは営業マン主導の設計、過剰なノルマの現場監理、異常に安い下請け金額などである。 このような複雑な産業構造を一度、頭のなかで解体し、建築主にとって必要なものだけを拾い上げて再構築したところ、筆者流のCMになった。既存の建築業界の枠組みを取り払ったところに、CMがみえてきたと筆者は考えている。 従来型の発注方法 発注方式だけに着目すれば、建築主の選択肢は限定されている。つまり、設計施工を一括発注する方式である。発注する先は全国展開する大手のハウスメーカー、地場の工務店、あるいは親しい大工と、選択肢はいろいろありそうにみえるが、いずれも建物全体を一括で契約(発注)することが前提である。住宅全体の99%近くはこの設計施工一括発注方式で建てられている(表1)。 表1 従来型とCM方式による発注方式の違い
※建設業でのVE(バリュー・エンジニアリンク)は、デザイン、品質および管理・保守を低下させることなく、最小のコストで必要な機能を達成するために、建築物、工法、手続き、時間などの改善に注がれる組織的な努力のこと このなかで、設計と施工を分離して発注するケースがごく一部にある。ただし、ハウスメーカーや工務店が設計事務所に設計を委託するケースは、設計と施工の分離とはいわない。建築主が設計を設計事務所に発注したとしても、工事は施工会社に一括で発注するのが通常である。設計監理と施工を分離して発注する方法は、設計者が中立的な立場で関与する意味はあるが、設計者にコスト分析、施工チェック能力が備わっていなければ、CMにはほど遠い。 また、施工の一部を分離発注するケースが考えられる。たとえば親戚や知人が専門工事業を営んでいる場合である。元請けは歓迎せざる行為として嫌うであろうし、たとえ一部を分離で発注したとしても、このケースは建築発注方式としてはあまり意味をもたない。 親しい大工に頼み、それぞれの工事代金を建築主が実費精算する場合もある。数十年前はこの方式が一般的だったのだろうが、工務店やハウスメーカーの台頭によって、現在ではほとんどみられなくなった。分離発注の形態には違いないが、マネジメントといえるものが存在しない。建築主による直営工事である。 住宅版CMによる発注方式 日本での住宅版CM方式は設計事務所が中心になって、建築主、専門工事会社を巻き込むかたちで発展してきた。設計事務所は建築主から業務を受託する。その業務の内容は、設計監理、コスト分析、発注代行、工程管理など住宅建築における一連の作業が含まれる。工事は建築主と各専門工事会社が直接契約する。住宅版CM方式ではこの方式が最も多く、筆者たちのグループは 「オープンシステム」と呼んで実践している(147頁参照)。 一方、工事の元請け会社を決めたうえで、下請け会社を入れ替えるという方式がある。また、設計監理、施工に直接関わらずに、建物全体をマネジメントするという考え方もある。その場合、建築主はマネジメント会社と業務委託契約を交わし、マネジメント会社主導で設計会社、施工会社を決めることになる。 いずれにしても、現在の住宅版CMは過渡期である。今後は、発注代行業務に特化する場合や、施工監理に特化して業とするといったような、さまざまな業務形態の出現も考えられる。 従来型とCM方式の違い ここまで解説した内容を表2にまとめて比較する。従来型の一括発注方式と住宅版CMによる発注方式の最大の違いは、業務を行う者の置かれている立場の違いにある。なお、ここでいう「一括発注」と「一括請負」は同じ意味である。建築主からみれば発注であり、施工会社からみると請負である。 設計施工一括請負では、建築主と請負者の利害は対立する。請け負った側は、建築主に対して明らかにできないことが生じる。これはやむを得ない。置かれている立場が違うからである。一方、新しい発注方式=CM方式を行う者は、建築主や施工者に対して、より中立的な立場をとる。どちらかといえば、建築主に代わって業務を代行する立場にある。そこが請負と業務委託の最大の違いである。一括請負の場合は、より大きな金額で請け負って、より小さな金額で下請けに出すほど利益は増える。また、仕様変更や下請けとの価格交渉で金額が下がれば、大部分は請け負った会社の利益となる。 CM方式の場合でも、各工事の金額にまったく左右されないとはいわない。CM方式実践者の得意・不得意や、住宅に対する考え方の影響はあるだろう。しかし、少なくとも、専門工事会社の金額をいくら下げても、CM実践者の受け取る報酬は変わらなけ。CM実践者の努力によってもたらされた利益は、基本的に施主に還元される。 なお、CM方式による分離発注の場合、専門工事会社は下請とはならない。建築主と請負契約を交わすので、「元請け専門工事会社」というべきであろう。 表2 設計施工一括発注方式とCMによる分離発注の違い
※CMのなかには工事代金が下がるほどCM会社の報酬が増えるという方式もある 住宅版CM方式で失敗しないポイント (P145〜146) 住宅版CM方式分離発注を行う目的 住宅版CM方式の経験者は着実に増加しているとはいえ、まだ少ない。「設計事務所が分離発注をすれば必ず安くなる」と短絡的な考えで取り組むと大けがをすることもある。CMは安易にかたちだけを真似ても効果はでない。準備と心構えが必要だ。住宅版CM方式による分離発注が、設計事務所を中心に広がっているのは、それなりの背景がある。 多くの設計者は次のような点を感じていた。住宅がこのように高価なのはなぜか、欠陥住宅が後を絶たないのはなぜか、住宅産業の宣伝や営業費用はどこから出ているのか、営業マンのチェックシートで設計が進められてよいのだろうか、多くの物件を同時に抱えて現場管理が行き届くのか、技術をもつ職人が隅に追いやられているのはなぜか…。 従来の設計監理業務にも疑問があった。建築主から設計監理を依頼され、工務店から見積りをとる。予算をオーバーしても、設計者は価格決定権をもたず、あくまでも工務店の見積り金額が実際の価格となる。ここから設計変更という後ろ向きの作業が始まる。石をタイルに変える。羽目板をクロスに変える。安い材料でデザインする涙ぐましい努力を続ける…。やっと、予算内に落ち着く。今度は工事が始まる。現場監督は多くをかけもちしていて、打合せが密にできない。設計図面と施工に食違いが生じ、職人と直接打合せをする…。やはりどこかがおかしい。このような状況下で、分離発注を試みる設計者が現れた。石やタイルの実勢単価を知り、驚く。同じ予算内で、多くのことが可能になった。同時に、設計の自由度が増し、創造の可能性が広がった。 建築はいったい誰のものか。いうまでもなく、建築主のものであり、すべての原点を建築主に置く。そこに徹底することで、設計者も専門工事会社も、本当の意味で生かされる。これが、CMを行う目的であり、原点である。 コンストラクション・マネジメントを行う設計者には、多くの知識と経験、さらには根気と忍耐までもが要求される。これはCM草創期だからやむを得ないともいえる。それにもかかわらず、設計者が嬉々として取り組み始めたのは、CMの可能性の大きさを見出だしたからにほかならない。小さな設計事務所であっても、右手に創造の刃を、左手に合理性の刃をもてば、大企業にも勝てるという痛快さである。 住宅版CM方式 分離発注の役割と責任 住宅版CM方式にもさまざまな形態があることは143頁で述べた。ここでは、現在最も主流となっている、CMによる分離発注について、それぞれ関係する者の役割と責任について整理する。 @建築主(発注者)、A設計者=CMr(コンストラクション・マネージャー)、B専門工事会社の三者がCMによる分離発注の当事者となる。各々が担う役割の違いはあっても、住宅というプロジェクトの完成のために協力し合う。その意味において各々は平等である(写真)。 三者ほ、CMによる分離発注方式がどのような流れで進められていくか、また、各々の役割と責任はどのようなものがあるかを事前に理解し、把握していなければならず、そのことが大前提である。 分離発注によるCMとはいっても、発注形態そのものは建築主による直営工事と何も変わらない。極めてシンプルな方式である。ただ一つ違うところは、直営工事のよさを最大限に発揮するために、設計事務所のマネジメントを伴うということである。原則は、発注者(建築主)は発注者として、設計者(CMr)は業務の受託者として、専門工事会社は請負者としての責任を負うことである。 以下に、各々の役割と責任について具体例を挙げながら説明する(表)。 CMによる分離発注での役割(CMrを設計者が行う場合)
建築主の役割と責任 建築主には委託した業務や発注した工事に対して、代金の支払い義務が生じる。また、住宅に対する自分の考え方を設計者に伝え、各種申請書に必要な添付書類(所得証明書や土地の登記簿など)で、建築主でなければ用意できないものを用意することは最低限必要である。ただし、実務面の大部分は業務を受託した設計事務所が代行する。 では、もし現場で事故が起きたとき、責任は建築主に及ぶことになるか。この答えは、及ばない。請け負った施工業者が責任を負う。分離発注の場合は、それぞれが請け負った工事の範囲について責任を負う。ただし、建築主が直接指示をして安全上無理な施工をさせた場合は、建築主に責任が及ぶ場合もある。足場を取り払って工事をさせることなどであるが、もっとも、このような指示を建築主が直接行うことはあり得ず、施工会社も工事を行わないだろう。 では、養生中の床に傷が付いた場合は誰の責任で直すか。傷を付けた者が分かれば、その者の責任で直すことになる。問題は、誰が傷を付けたか分からない場合である。この場合は、建築主が直す費用を負担することも生じる。ただし、施工者が適正な養生を怠っていた場合は、施工者の責任で直すことになる。 工事中の盗難や火災については、損害は建築主におよぶ。また、設計事務所や専門工事会社が倒産した場合も、建築主に損害が発生する。 このように、家づくりは至るところに大きなリスクが潜んでいることを建築主は認識しなければならない。リスクを回避するため、建築主が工事保険を活用することは最低限必要であり、さらに、設計事務所や専門工事会社が、どのようなリスク回避策を用意しているかを、確認しておかなければならない。 設計者=CMrの役割と責任 マネジメントを行う設計者は、受託した設計監理とマネジメント業務について、業務を遅滞なく誠実に実行する責任がある。契約や支払いといった、建築主でなければできないこと以外の大部分の業務は、設計事務所が建築主に代行して行う。 具体的には、各種申請業務や設計、見積りの分析、施工者の選定、契約書の準備、工事監理などを行うが、設計者はそのつど建築主に報告し、了解を得ながら進めなければならない。 設計内容に間違いがあり、その結果発生した被害は、設計者の責任となる。たとえば、構造計算ミスにより、床が落下した場合は設計者の責任である。 支給の建材発注に間違いがあった場合はどうするか。通常は、設計者が建材の数量やサイズを検討し、建築主に代行して発注する。この場合は設計者が責任を負う。建材販売会社やメーカーが積算し、間違いがあった場合は販売会社やメーカーが責任を負う。 工程表の作成や工事工程の調整は設計者が行う。各工事会社は円滑に工事が進むように、設計者に協力する必要がある。 専門工事会社の役割と責任 各専門工事会社は、通常の工事では下請けとして参加する。ところが、分離発注の場合は元請けである。ここで、元請けとして意識を切り替えることが必要となる。元請け・下請けにかかわらず、請け負った範囲を確実に完成させるのは当然として、元請けは労災に対する責任を負う。政府労災は当然のこと、損害保険などでリスクをカバーしておくことも必要である。 専門工事会社は、工事内容を改善したほうがよいと認識した場合は、事前に建築主や設計者に提案しなければならない。請け負った部分に関係する前工程や後工程についても同様である。たとえば、塗装工事が終わった後に、施工不良を指摘されても、下地の不陸を理由に言い逃れは許されない。下地の施工が悪ければ、設計者に指摘して確認を受けてから施工に入るべきである。 CM方式による分離発注を実践オープンネットの活動・仕組み (P147) ネットワーク発祥の経緯 オープンシステムは、92年から行われていた。全国的なネットワークとしての広がりを見せ始めたのは98年ごろである。それまでは、関心をもった数社の設計事務所が、お互いに連絡を取り合いながら進めていた。成功例、失敗例、そのほかお互いが経験したことを交換し合っていた。 施工のことなら**氏、関連法規は**氏、広報のセンスなら**氏といったように、わずか数社の集まりでも個性の違いが見えてくる。創造に生きる設計事務所の特質だろう。多くの事務所が力を出し合えば、より多くのパワーが生まれることを知ると同時に、個々にできることの限界も感じた。そのようななか、考え方を同じくする設計事務所が集まってネットワークを構築し、現在、全国に235の設計事務所が取り組むまでになった(表1・2)。 CM、すなわち建築をマネジメントすることは、同じ手法を採用したとしても、結果におのずと差が出る。それがマネジメントである。手がける技術者の力量が如実に現れるものだ。オープンネットはこのような背景から誕生した。 ネットの目的とメリット ネットワークの活力を個々に還元し、活力を与えられた個々は、さらにネットワークに新たな活力をもたらす。オープンネットの最大の目的は、個々の事務所ではできないこと、あるいは極めて困難なことを切り開き、解決していくことにある。 初期のころは、建築主の理解を得て、受託するにはかなりの苦労があった。受託が目に見えて増えだしたのは、この1〜2年のことである。オープンシステムの解説本『価格の見える家づくり』(コスモ・リバティ社刊)が大きな起爆剤となった。この解説本は、いわば総論編である。今後は事例集・各論編の展開を予定しており、家づくりの過程をよりリアルに描き出そうとしている。 オープンネットの活動内容 オープンネットは住宅工法のフランチャイズとは違う。トップダウン的に決定事項を流すのではなく、現場の最前線である参加設計事務所が情報を共有し、意思決定をする。個々が全体に影響を与えながら、常に変化を続けていく組織である。以下がオープンネットの主な活動である。 @広報活動・営業支援 ・ホームページでオープンシステムの解説、会員設計事務所の紹介、事例紹介、建築主と会員の出会いの場(OMIAI)などを提供(図・表3) ・書籍の出版でオープンシステムの解説、会員事務所の事例紹介など ・新開、テレビ、雑誌などのメディアを通じた広報・ビデオ、ガイドブック、パンフなど営業支援グッズの提供 ・各地の説明会などの支援 A技術向上の支援 ・メーリングリストを活用した会員相互の意見交換、情報交換 ・研修会、勉強会などの開催 ・実務を通した研修(OJT) B業務に対する支援 ・契約書、設計シート、積算データ、発注説明書、見積り要綱書、出来高調書、支払い通知書、工事監理チェックシート、引渡し書など各種書類の共有化 ・積算数量、工事単価、工程管理など会員の経験情報の共有化 ・建材メーカーや販売会社の直販ルートの開拓 ・専門工事会社をネットワーク化し、円滑な業務につなげる C補償・リスク回避 ・補償共済会を立ち上げ、工事現場での事故、専門工事会社の倒産リスク、設計事務所の倒産リスク、瑕疵補償などに対処 ・補償の裏付けとして大手損害保険会社と再保障契約を締結 最近は住宅に限らず、中規模ビルにも果敢にチャレンジする設計者が現れ、オープンシステムの先進事例として新しい分野が開拓されている。 CM・分離発注のトラブルを避ける (P148〜151) 分離発注でのリスクと回避策 CMによる分離発注の場合は、各専門工事会社の工事明細がすべて建築主に公開される。したがって、あいまいさは通用しない。一括請負なら、基礎工事費が増加したぶんを仕上げ工事で穴埋めする、という融通も利くが、分離発注ではそうはいかない。 基礎工事費はいくら増加したのか。その理由はなにか。設計に問題があったのか、積算に落ちがあったのか。それとも予測不能の地下水が噴出したのか。建築主に対して原因を明らかにし、誰がどのように負担するかを決めることになる。このように建築にはさまざまなリスク要因が潜んでおり、損害保険などでリスク回避を図ることは当然必要である。だが、CMによる分離発注に完全に対応した保険は今のところ見当たらない。そのためオープンシステムでは、大手損害保険会社とタイアップして、独自の補償共済を立ち上げた(117頁参照)。共済というスタイルをとったのは、保険の性格上どうしてもカバーしきれないぶんがあり、その隙間を埋めるためである。ただし、最大のリスク回避は、保険を使って処理することではなく、ミスやトラブルを未然に防ぐことである。保険は万に一つの予測不能な事故に対して使うものである。頻繁に使えば信用を失い、顧客を失うことになってしまう。それでは本末転倒というものだ。 トラブルを未然に防ぐには、まず業務の流れをしっかりと把握しなければならない。次に、必要な資料や書類、図面を把握する。技術者は整った書類や図面を見ると具体的な作業内容が浮かんでくるし、起こりうる問題も想定できるものだ。 以下、実務の流れに沿って書面、図面などの留意点を挙げる。 業務委託契約前の準備 ・CM−分離発注を説明する資料 図1のようにCMにもとづく分離発注を説明するパンフレットなどの資料を作成しておけば、営業ツールとしても活用できる。関係者がCMによる分離発注を理解しないままでスタートすると、後の業務が非常にやりづらくなり、大部分のトラブルのもとをつくつてしまう。三者すべてがこのような資料を通じて情報を熟知しておくことが必要である。 ・業務報酬の算定書 業務を受託する前に、報酬をきちんと決めておくことが肝要である。従来の設計施工一括請負の感覚から抜け切れない建築主は、業務報酬料の額について抵抗を示す。まず、ここが理解できなければCMはあきらめたほうがよい。後のトラブルの原因になるからだ。 図2には、業務報酬算定書の例を示す。筆者の事務所では、大きく基本設計、実施設計、見積り・施工会社の選定、監理・工程の調整の項目に分けて業務報酬料を算定している。各社のこれまでの事例から、平均的な数値を割り出して設定するとよい(コラム参照)。 図2 業務報酬算定書(例)
COLUMN (山中省吾[オープンネット]) CMの報酬はこう決める CMによる完全分離発注の手間のかかり方 業務を行う者の経験や能力によって、大きく違うようだ。経験者の声を聞くと、年間に可能な建築士1人当たりの仕事量は、木造住宅で3〜4棟が最も多い。なかには、1人で5〜6棟受託している事務所もある。このケースは設計事務所と工務店の両方の経験を積んできた設計者に多い。 基本設計にかける期間も事務所によって大きく違う。2〜3ヵ月ですませるところもあれば、半年〜1年以上を費やしているところもある。これは能力というよりは、事務所の方針のようだ。実施設計は1〜2ヵ月というのが一般的で、どの事務所でもあまり変わらない。実施設計は機械的に流れる作集だからであろう。見積り期間は、通常は1ヵ月程度で、予算内に収まらなければ、さらに伸びる。工事期間は3〜5ヵ月が一般的である。 一つの建物に携わる業務期間は、最短8ヵ月という事務所で、最長は2年になる場合もある。ただし、設計者は一つの物件に専念しているわけではない。ある物件は計画中、またある物件は実施設計中、監理中というふうに進めているので、業務期間だけで作業人・日数を割り出すことは難しい。 では、1棟の住宅に携わる業務人・日数はどのくらいであろうか。筆者の事務所(オープンシステム)の平均的な例を参考として示したのが、上の図2である。 CMによる完全分離発注の報酬設定方法 次の3種類の方法が主である。 @業務に費やす人と日数を想定して算出 A工事費に連動させて算出 B床面積に連動させて算出 目標価格、あるいは見積り参加者の平均金額に対して、決定金額の差額に連動させる方法も考えられるが、筆着たちのグループでは行っていない。経験の浅い事務所は、業務に必要な人・日数算定の根拠が乏しいため、先例のデータを参考にしている。 @は国土交通省告示を参考に、分離発注による業務を加算している。図2に示したのはその1例である。 Aは工事金額合計の15〜25%とすることが多いようだ。工事金額に連動させる方法は、CMrの努力によって工事金額が下がるほど、自らの報酬額を下げる結果になるというジレンマがある。 Bは経験を積んだ事務所が自社のデータを分析し、独自に算定式をつくっている。床面積に連動することに違いはないが、正比例はしない。20uの建物は 200uの建物の1/10ではできない。参考までに、筆者の事務所の算定式を紹介する。業務報酬料=(150万円+床面穣[u]X2万2千円)×係数。係数は一般的な住宅は1.0で、数寄屋建築など特殊なものは1.2などと大きくなる。 業務委託契約の内容を確認 業務委託契約書の例を150頁図3に示す。ここに業務内容をすべて書き出しておく。特に、通常の設計監理業務に加えて、見積り金額の比較検討、施工業者の選定、工程の調整といった分離発注に必要な業務を明記する。 また、基本計画・実施設計にはかなりの時間を費やすので、設計事務所の負担にならないような支払い時期、支払い方法を決めておく。 基本設計では模型を活用 計画の初期の段階では、建築主の意向をできるかぎり引き出すことに努める。後の変更を出さないためにも、模型の作製は有効である。この模型は計画案を立体的に再検討するのが目的であるため、場合によっては段ボールを素材とした簡易な模型でもかまわない。 同時に、間取りやデザインとともに、断熱や気密に対する考え方、設備や機能、仕上げ材料などについてもよく話し合い、方針を整理しておく。 斬新な提案で夢を膨らませるのもよいが、合理的な工法、形、材料の選択も常に意識しておく。価格を考慮しない設計では意味がない。予算を大幅に上回れば信用を失うし、手戻りも大きくなってしまう。 実施設計では積算できる図面を CMによる分離発注だからといって、特別な図面が存在するわけではない。公共工事で通常描いている図面を揃えれば足りる。147頁には、木造住宅で標準的に用意する図面の種類を示す。施工図レベルの図面を措く必要はないものの、最低限、専門工事会社で積算ができる程度の図面が必要とされる。 図面サイズは自由であるが、プリンタの仕様や製本の保管などを考えれば、A2よりもA3サイズが案外使いやすい。 見積り参加募集と検討 見積り期間は、通常は1ヵ月程度みておく。予算内に収まらなければ設計変更などを行うため、さらに延びる。経験の浅い事務所は、2〜3ヵ月のスケジュールを組み込んでおくほうが無難であろう。以下に、見積りに必要な書面の例を挙げる。 ・見積り参加案内 専門工事会社に、見積りの参加を募る書面を送る。オープンシステムでは、登録してある専門工事会社に、WEB上から自動的に案内を配信する。登録業者以外への案内はFAXなどで送信している。 ・発注説明書 見積り方法の説明、提出された見積り内容の検討方法、業者の選定方法などを明記する。提出時にはVE提案、つまり、性能・機能を維持または向上させつつ、コストダウンを図る方法を提案する。 ・質疑応答書 質疑は書面で行う。質疑がなかった業者にも応答書を送り、各社の見積り条件を同一にする。 ・見積り参加業者金額比較表 提出金額の一覧表を揃える。これにより、折衝や変更による金額の変化も把握できる。 ・見積り結果通知書 業者選定の結果を、参加業者全員に通知する。 ・支払い予定表 最終金額の一覧表と支払日、支払い先、金額を記入する。見積りの最終調整ができないまま見切り発車することは、決して行ってはならない。これは後で必ずといってよいはどトラブルを招く。 工事着工前の書類作成 ・工事請負契約書、約款 決定した専門工事会社ごとに工事請負契約書を作成する。工事の範囲、支払い条件など一般事項のほかに、瑕疵担保責任の発生、補償に関する取決めなど、分離発注を想定した内容にしておく。 ・工事工程表 工程表の作成は、経験の少ないときには、各業者に参加してもらうとよい。一堂に会しても、住宅規模では2時間程度みておけばよい。 業種ごとの担当者(職人名)、電話、FAX、携帯電話番号も記入する(180頁工程表参照)。 ・保険、補償に関する書類 各専門工事会社の労災保険を確認する。工事保険、そのほか補償に関する申請などである。 工事管理、竣工時にはシートを用意する ・工事監理チェックシート 監理のポイントをまとめてシート化しておく。チェックしたものは、建築主への報告書にもなる。 ・竣工検査チェックシート 竣工時に見るべきチェックポイントをシートでまとめておく。これも建築主への報告書に活用できる。 ・竣工引渡し書 通常使用している引渡し書を用意すればよい。 木造住宅の標準的な図面の種類
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